あの戦争が始まってから、ほぼ一か月が過ぎた。月面上に現れた未確認生命体を、合衆国宇宙軍はほぼ一方的に敵と断定、現在も新兵器を投入して虐殺ともいえる攻撃を行っている。仮想敵を求める現政権らしいやり方だ。
俺は地球から遠く離れた母艦の中で、彼女のことを思い出した。ハイスクール時代の彼女とはほぼ断絶状態にあった。
「なぜ、彼らを殺すの?」
と、彼女は聞いた。
「イレーヌ、『パンとサーカス』という言葉を知ってるか?」
「だったら、あなたも声を上げないと・・・・・・」
俺は自嘲気味に笑った。乾いた笑い声が、夏の空に虚しく吸収されていった。
「それは俺の役目じゃない。ただ、どんな状況であれトリガを引くのが兵士の使命だ」