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2018年11月10日土曜日

Déesse grise.

「彼女はいったい何者なのか?」
この春に、五人の小学生が有名女子大に通う学生に誘拐された末に殺害された事件で、誰もがそうした疑問を抱いた。そして、彼女が逮捕されてから、彼女の「心の闇」を照らそうと有名な社会学者や作家が事件のバックグラウンドや彼女の生い立ちを引き出して雄弁に事件のことを語った。こうして、彼女は現代社会の象徴として祭り上げられていったのだが、私はふいにこう思うことがある。まだ裁判で要点が踏まえられていないにもかかわらず、被害者をおざなりにしてエミリー・ディキンスンやスティーヴン・キングの引用に明け暮れ、犯行をダシにして高学歴社会の病巣を声高に非難し、これが現代の若者の抱える問題だと嘯く。我々は何の根拠もなく彼女を理解したつもりだったが、逆に我々の方が彼女の掌の上で踊らされていたのではないのだろうか、と。