死刑制度の是非を問う、実話をもとにした映画『デッドマン・ウォーキング』を観ました。内容は、ひょんなことから死刑囚のマシューから手紙が届いたシスター・ヘレンが、その死を見守ることになり、ヘレンとの交流のうちに、極悪非道だった男の内面にも変化が芽生え始め・・・・・・といったものですが、何というのか・・・・・・凄まじいです。俳優さんの演技がみな淡々として抑制されている分、殺人事件に巻き込まれた人たちの怨嗟の念というものが生々しく伝わってくる作品でした。
特に印象に残ったのは、殺人犯のマシューの母親のシーンです。息子があんなことをしたばっかりに、母親は家族もろともいじめや悪意にさらされます。何の落ち度もないのに、息子が森の中でカップルをレイプの末に惨殺、挙句の果てにはヒトラー礼賛や人種差別的な発言を繰り返していたら、そりゃ「どうして?」とずっと自問自答してしまうよなーと感じました。
ですが、加害者側ばかりではなく、きちんと被害者遺族にもスポットライトがきちんと当たっています。特にマシューの味方になったヘレンは当然「敵」として認定され、遺族の家に向かったヘレンが容赦ない言葉を浴びせられるシーンは、本作でもマシューのお母さんの苦悩と同じくらいインパクトがありました。
本作は死刑制度の是非と問うという内容ですが、それは建前で、死刑を票集めのパフォーマンスとして利用する州知事や、「ケダモノ」と称された男に必死で向き合うヘレン、被害者遺族・加害者家族の苦悩や怒りなどを漢方薬のように煮詰めて「人を殺すと、いったいどうなるのか?」を生々しく描き出した作品だと感じました。