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2019年9月17日火曜日

最後の晩餐を読みました。

『12歳。』シリーズで有名なまいた菜穂先生のホラー短編集『最後の晩餐』を読みました。
内容は人体切断やカニバリズム等、けっこうおぞましい題材があるのですが、意外と残酷なシーンは皆無ですが、まず、私がこの中でインパクトを受けた作品の感想を描きてみたいと思います。
人身事故で亡くなった少女の亡霊の都市伝説を巡る『踏切のさっちゃん』ですが、面白半分にその伝説が絡んだおまじないを実践したため、みんなが徐々に体の一部をもぎ取られていきます。トイレの床から排水口へと血が流れていくシーンや、破壊されたドアから手がのぞいている描写などは、体を千切られるシーンを見せられるよりも「痛さ」を感じさせます。
『最後の晩餐』も、人間が直接解体されるような描写はなく、台詞のみでカニバリズムが表現されているのですが、主人公が自然に食べる対象を犬から人間へと移していき、至福の表情で悦に浸るところに、凄まじい狂気を感じました。満面の笑顔で「こんなにおいしいものがあるなんて知らなかった」と言い放つ主人公に、いったいどう声をかければいいのでしょうか?これは血だらけの死体を見せられるよりも恐ろしいシーンです。
『糸電話』も自分の都合のために相手を裏切り、切り捨てる主人公と、その代償のようにエスカレートしていく友人の想いにこそ本当の怖さがありました。
最終的に主人公はカッターで顔にある「とある部分」を切断されるのですが、床に血のこびりついた体の一部分が転がっていたりするシーンがあるわけではなく、血がつたう糸電話の描写で、「何が起きたか」の生々しさがいっそう感じられました。
このように、『最後の晩餐』はグロテスクな描写が一切排除されている分、その裏で起きていることを想像させるという、奥ゆかしい恐怖を感じさせる作品だと思いました。