カテゴリ

2025年6月2日月曜日

『灰谷健次郎:ーその「文学」と「優しさ」の陥穽』より

 高校の時に偶然、何か灰谷 健次郎氏を批判的に論じた『灰谷健次郎:ーその「文学」と「優しさ」の陥穽』という本を見つけて、興味本位で買ったことがあります。まぁ・・・やっぱり何か私も『兎の眼』ですごいインパクトを受けた一人なんで、灰谷氏に熱狂していた一人だったのですが・・・。

まぁ、やっぱり一方的な絶賛の中にいれば、(いまどきの言葉でいえば)エコーチェンバー現象に基づく排他性も生まれるわけで、そんな中で灰谷氏に批判を向けるというのはある程度、勇気のあることだったと思います。中でも『笑いの影』における差別表現から度重なった灰谷氏の倫理的なミスや、剽窃(だから私も参考文献を明記しておかなければ・・・と思うのですが)ともいえる行為、都合のいい自然主義への指摘は、正しい故に灰谷ファンとしては結構耳が痛いな・・・と感じました。だからこそ、余計に灰谷氏に感化された人は読む必要があるかと・・・。

ですが・・・何か本書は手放しで絶賛できるものではなかったです。読んでいると「灰谷憎し」の為に「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」といわんばかりに、作中の揚げ足取りに終始しているような感がありましたし、事実誤認ともいえる箇所がありました。ソースが半ばウィキペディアなのが非常に情けないですが、『太陽の子』に関しても、「全くアメリカ軍基地のことがでてこない」(P48)とありますが、キヨシ少年のエピソード(沖縄時代の家が「アメリカの基地の飛行場の下」であることや、母親が「アメリカの兵隊に乱暴され」たこと)を読むにあたり、「全く」ノータッチではありませんし、「失業率が本土と比べて異常に高い」(125P)という指摘は、ラストのろくさんが刑事に訴える時のセリフでちゃんと「失業率は全国最高」と書かれてたりするので、フォロワーに囲まれてチヤホヤされている作家に一撃を下したいという意識ばかりが先行し、その辺りから灰谷氏(とその作品)を不当に傷つけていると思いました。

 ちょっと話は変わりますが、こういう系の話は一部の半端なマニアが弄することがよくありますが、こうした発言は本書の執筆者である黒古 一夫氏のように商業的責任を科され、そこら辺から生ずるTPO(品位)を守ってこそ初めてできるものであり、ネットを中心として本末転倒ともいえる事態が起きているのは由々しき事態だと日々考えています・・・。