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2020年1月19日日曜日

満たされぬ悪役

学生時代に、廣嶋玲子氏の『鬼が辻にあやかしあり』という児童書シリーズを買ったことがあります。
舞台は江戸時代で、強大な力を持つ猫の妖怪、白蜜姫が、悪人を成敗して結果として被害者が救われるという話なんですが、まあ、エグいんですよこれが。
白蜜姫は決して悪人退治を善意でやっているわけではありません。悪人の魂をコレクションするという利己的な理由があり、相手も外道ばかりです。
例えば、一巻では贅沢な暮らしをしていたために、それだけでは飽き足りずにゲーム感覚で放火を続ける金持ちのバカ息子、そしてその息子に賄賂を渡されて他の人間に濡れ衣を着せる奉行所の役人が登場します。
二巻では、金品を奪うだけではなく、押し入った先の人間を惨殺していく盗賊が登場し、みんな遊びで人を殺していくような、倫理観が壊れた人ばっかりなのです。
当然、こんな人たちにはサディスティックな制裁が下るわけですが、こうした残酷シーンや流血シーンは児童書らしく控えめに書かれているぶん、いっそう生々しさを感じさせました。
ですが、本作は陰惨で暴力的なだけではなく、きちんと被害にあった人への救いも用意されているので、後味は悪くありません。現在、本作は三巻までしか刊行されていませんが、もっと続きを読んでみたいシリーズです。