満州からの引き揚げを題材とした児童書『おとうとのねじまきパン:ずっとむかし、満州という国であったこと』を読みました。
本書では、日本がかつて中国大陸に(勝手に)建国した満州という国の興亡と、敗戦という破滅の後に待ち受ける、ソ連兵の蛮行や極限状況における逃避行など、民間人への地獄が綿密なリサーチで、子供にわかりやすいように描かれています。ここまで読めば、戦争そのものを憎み、引き揚げという修羅の道を味わった人達に当然同情すべきですし、多くの本がそうしたルートを辿っていることでしょう。
ですが、『おとうとのねじまきパン』はそうした単純化と自国ありきの被害者意識に基づく、平和への探求をある程度否定しています。本書は満州を題材にしていますが、著者の高橋 うらら氏は当時横たわっていた中国人への差別意識や、虐殺などの加害行為を(主に満州を生きた)日本人全体の問題として書いており、(こうした話にありがちな)軍部エリートへの責任転嫁や、庶民の美化に逃げていません。こうした所に、私は高橋氏の勇気と誠実さを感じました。
そして、 あとがきでも高橋氏は訪れた四川省の現地のガイドに怒りをぶつけられるのですが、その日本人としての自省を見るにあたり、同じく中国残留孤児を扱った子供向けノンフィクションが、戦後における中国人の日本人に対する怒りを無理解として切って捨てた態度とは、本当に真逆だなぁと感じたのでした・・・。