小学生の時に『いつか緑の木かげで』という児童書を読んだことがあります。
なんか修学旅行先で核戦争に巻き込まれ、先生と子供達が(核兵器使用の影響で)氷河期のようになった世界の中で、故郷を目指すという話なんですが、その故郷というのが長崎という所が非常に生々しくて容赦がないと思いました。戦争が始まれば、国際法に守られるなどという甘い御伽話など存在せず、どこだろうと手加減なしに攻撃されるという非情さを、見事に表しています。
本作はいわゆる「終末もの」に相当する作品だと思いますが、こうした作品にありがちな暴動や殺し合い、人間の狂気が強調されて描かれることは殆どないです。一応、壊れた大人が出てくるのですが、その辺りが冷静に描かれているので、胸糞シーンがばかりを狙った作品が陥っているものよりは、遥かに胸に迫るものがありました。
ところで、「ディープ・インパクト」という彗星衝突を扱った映画があります。あちらも殺し合いとか略奪ではなく、最期を迎えた人間の良心を中心に描いたヒューマンドラマでしたが、『いつか緑の木かげで』も、そうした深い余韻がのこる作品でした。そこらへんの終末ものだったら、まず佐原先生が発狂して子供達に襲いかかり、命からがら逃げた子供達も疑心暗鬼になって殺しあいになり、生き残った子が絶望を抱えたままという血なまぐさいラストを迎えていたでしょう。それを敢えてやらなかったのは、児童書という媒体だったということだけではないと思うのです。
そして、ラストの佐原先生の決断ですが・・・本当に泣きそうになりました。ああいう系の終末ものって・・・希少な気がします・・・。