なんか、トラウマ児童書なるものが時折ネット上で話題にわりますが、小学生のころに木暮 正夫氏の児童書『一丁目のおばけねこ』がかなり怖い・・・というか「幽霊(オバケ)」そのものではなく、社会問題とかそういう悪意の描き方に対する胸糞の悪さの方が強く感じられる作品がありまして・・・。
(いささかネタバレになりますが)本作は真犯人が最後まで明確に成敗される様子が描かれず、やり場のない怒りと痛みだけが残った状況で幕を閉じるのですが、安直なお仕置きが描かれるより、悪は時として逃げ得を味わうというリアリティを突き付けることが、寧ろ読者の倫理観を醸成する大きなチャンスになっていると思います。
本書が刊行されたのはもう30年以上前のことですが、小市民的存在が相手の非につけこんで振りかざす排除の理論、正体を明かさない卑劣な悪意など、今の社会にも十分通用する風刺が込められています。
なお、『一ちょうめのおばけねこ』から始まる『おばけ横丁シリーズ』では、幽霊はただの復讐者や友達として描かれるのではなく、犯罪や戦争などのバックグラウンドが、作者のまっとうな倫理観と怒りに基づいて描かれているので、安直な「おばけもの」にはない重みがあります。こういう所で、どこか西 尚美先生の漫画『あかりとシロの心霊夜話』のような雰囲気を感じますね・・・。