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2024年7月5日金曜日

みんなが望む弱者像

 『宇宙人のいる教室』という児童書では、いじめの被害者が更に弱いものへのいじめに加担するという寒々しい現実が書かれていましたが、大人の理想にあわせてピュアな被害者を描かずに、子供達を正邪持ったありのままの人間として描いたからこそ、あれだけの人気が出たのだと思います。こういう所から、はっきりとした解決はせずとも主人公が精神的な成長をちょっとだけ遂げるという所で話が終わっているのも、高みから社会問題を糾弾するような作品より遥かに胸に迫るものがありました。

あんましこういうことは・・・書きたくはないですが、相手のリアルではなく、弱者ならこうあるべきだ!というような理想をみんな託しがちだと思うんです。私も含めて・・・。で、弱者やマイノリティに自分が抱いているイメージを託して勝手にキャラクター化し、金儲けや承認欲求の道具に使うというか・・・。

だからといって、弱者を巡る綺麗事ではない現実を通俗道徳棒にしたり差別の目を向けたりすることは論外だとは思います・・・。 それと、そこら辺から生ずる人権意識や福祉制度への逆張りも、X経由でかなり見ますが・・・。

なお、 弱者が必ずしも犠牲者として描かれていない作品といえば、『ダンプのがらっぱち』という絵本が思い浮かびます。作者は『きいろいタクシー』や『ふたごのでんしゃ』などの乗り物系幼年童話をいくつも手掛けている渡辺 茂男氏、『しょうぼうじどうしゃじぷた』や『とべ!ちいさいプロペラき』などにおいて、乗り物を精緻なタッチで描くことで有名な山本 忠敬氏がイラストを担当されていますが、いじめにあった人間が更に弱いものをいじめ・・・その最後は、幼少の時はダンプばかりに目が行きましたが、今読んでみるとかなり毒の効いた教訓が染みわたっている作品だと感じます。巨大なダンプトラックが暴走と煽り運転を繰り返す様は、なんか「激突!」という映画を想起させますし・・・。